静かな日。たくやは朝から田んぼの畦塗りに行き、昼すぎになって帰ってきた。お昼は昨日たまきさんにもらった筍を土佐煮にして、三つ葉を散らして食べる。午後、ぽつぽつ降りだした雨がすぐ本降りになって、集落じゅうが真っ白くけぶった。冷えこむ空気の中で家の増築をすこしずつ進めているたくやの丸鋸やトンカチの音が、外から聞こえてきた。
私たちの家にはキッチンが(まだ)ない。毎日の食事の調理は、カセットコンロと灯油ストーブと薪ストーブの天板でなんとかやりくりする。できないことも多いけれど、餃子も魚も焼けるし、がんばればカオマンガイも作れる。
この家は、私が初めてこの集落を訪ねた二〇二三年の秋に建った。木材はすべて周囲の森のもので、仲間たちと協力して、たくやが自分で建てた(ほんとうに、すごいことだと思う)。二度目に訪ねたとき、彼はトイレを作っているところだった。今年はキッチンを作るのが最大の目標で、そのためには前段階として、一階のトイレから動線を繋げるための階段と、一階玄関と、壁と、増築部分の屋根を作らなくてはならない。いまは生活用水に掘りだした井戸水を使っているので、水道をひくのもこれから。階段の位置をどうするか、窓をどうするか、キッチンの間取りをどうするか、毎日すこしずつ出来上がっていく家の暮らしは工夫次第のところもあって、悩むこと自体がおもしろい。
おやつ用に買いためてあったお菓子が切れてしまったので、鍋の中にざるを置いて水をいれ、耐熱容器をセットして、蒸しパンを作ってみた。薪ストーブの熱では弱すぎて蒸しきらず、結局コンロで仕上げた。まあまあの出来。
夕飯のあと、ずっと一緒に見たいと思っていた映画『ファンタスティック Mr.FOX』をやっとたくやが見てくれて、面白かった〜と言ってくれた。プロジェクターで見ていたら、私のいちばん好きなシーンでスクリーンに大きな黒い影がかかって、何かと思ったら光と熱につられてレンズに張りついたカメムシだった。
町の公共サービスのおかげでwi-fi環境が整ったのでネットもさくさく動くようになり、とても快適。