昨日は新月で、明日で4月が終わる。『私運転日記』に洗いざらい書いた「人生の過渡期」から2年ほどの間にさまざまな出来事があって、今月、あの時期に出会った人と結婚することになった。互いの親に挨拶しにいき、友達や知人や仕事でお世話になっている人を紹介しあい、海辺の部屋の退去の手配をして、奥会津の人口二千人に満たない小さな山あいの町で暮らし始めた。13日の満月の日曜日、町役場をあけてもらって婚姻届を出した。星という名字の人と結婚したので(そして名字は私が変えることにしたので)、星清夏になった。この何週間か、ペンネームよりペンネームだよと言って人に話すたびに笑い話にしていたけれど、ほんとうはだいぶ気に入っている。
映画『ベイビードライバー』の、主人公の男の子(ベイビー)がカフェテリアでヒロインの女の子(デボラ)に出会うとき、デボラが「ベイビー」なんてすごくいいな、歌詞にベイビーが出てくる曲がたくさんあるもの、というようなことを言うシーンがあって、それと同じで、名字が星だったら、自分の名前がいろんな詩や歌に出てくることになるんだなと思っていた。でも、まさかそれが自分の名字になるとは。
ゴールデンウィークが始まっても、ここにはまだ雪が溶け残っていて、日によっては冷たい風が吹き荒んだりもしている。天気はくるくる変わり、気温も安定せず、やっと桜が咲いたと思ったらもう散っている。それでも先週、私たちは培土を敷いた苗箱に種籾を蒔いて小さなビニール囲いを作り、お米の育苗を始めた。同じ集落に暮らす移住者の先輩に助けられながら、水やりをして様子をみて。田んぼになる予定の地面を見にいき、そのへりに生えていた野草のカンゾウを摘んでお浸しにして、自家製のぽん酢で食べたりもした(山菜はあと、ふきのとうとこごみも食べた)。去年の夏以来、八か月ぶりに車を運転した。
毎日車で上り下りする坂道から、西の空の下に広がる山並みが見える。ブナの森の明るい緑が、毎日どんどんふくらむのが見える。
仕事用の机も椅子もソファも、手元にないと困る本たちも、愛用してきた台所用具もぜんぶ、まだ海辺の部屋に置いたままだ。暮らしの中に読み書きの時間を確保するだけでいまは精いっぱいで、新しいリズムを作る過程にいる。
5月はしばらく海辺に戻り、11日の文学フリマで新刊『湖まで』を初売り&サインします。17日は大磯SALOで、私蔵の古本を売ったりします。18日には同じくSALOで、ミュージシャンの浮さんと、朗読と音楽の会もあります。どこかで、あなたに、会えますように。