プリコグのO木さんが、大崎さん、一緒に何かやりませんか? 大崎さんと一緒に、何かやりたいんです、と声をかけてくださったのは、もう三年近く前になる。その「何か」がなんなのか、舞台芸術をゼロから作るのがどういうことなのか、全然わからないまま、とにかくその「何か」を一緒に作りたいと思える人を探すところから、このプロジェクトは始まった。
2022年秋、O木さんと一緒に、O木さんが教えてくれた中間アヤカさんのこども向け公演『およげ!ショピニアーナ』を京都の公民館のようなところへ観にいった。観客も全員巻きこんで(だけどその巻き込みはほんとうに自然で、いわゆる”観客参加型”のグイグイ来るようなところが一切ないことが感動的だった)、ダイナミックに場の変容が進み、最終的には舞台全体がこどもたちの遊び場と化していたその舞台に、私はめちゃくちゃ感動し、このひとだ!と思った。
映画監督の佐々木美佳さんとは、そのもうすこし前から知りあいだった。まだコロナの騒動が続く中、映画館がやっと一席空けのルールを考案し、やっとポレポレ東中野で上映された監督作『タゴール・ソングス』のアフタートークに、佐々木さんは私を呼んでくださり、上映後のスクリーンの前で、お互いそういうイベントに慣れないまま、照れながら一緒に話したことが思い出に残っていた。その後、彼女はインドの映画学校に留学することになった。
この三人でなら、きっと面白い「何か」ができる気がする!とO木さんと話しながら、プリコグの資金繰りや、会場をどこにするか、という話をうすうすと進めているうちに、二年くらいあっという間に経ってしまった。一時期は私のやる気も削がれて、もうこの企画はお蔵入りになるかもな、と思ったこともあった。
O木さん側からの提案で、会場は渋谷のどこかにと決まり、制作の算段もついて、2024年の夏の終わり、私たちは丸一日かけて酷暑の中を並木橋からサクラステージへ、ヒカリエへ、道玄坂へ、松濤へと歩き回り、へろへろになりながら、途中ファンシーな飲みものを飲んだりしながら、局面状の大きなスクリーンをもつ、同じフロアの飲食店からさまざまな音や匂いが漂ってくる、雑多な雰囲気のあるサクラステージの404 Not Foundを、全員一致で舞台の会場に選んだ。サクラステージは、その夏に建った、渋谷の再開発の中でも最新のビルだった。歩き回りながら、いくらか昔の渋谷を知っている私と佐々木さんは、くらくらとサルトルの眩暈&吐き気を催していた。ひとつの街と、私個人との関係が、こんなにも変わり果ててしまうことがあるのだということ。それは、驚きとか、悲しみとか、そういう単純な言葉じゃぜんっぜん言い表せない。だけど、これだけははっきりしていた。私は、もうぜんっぜん、渋谷のことがわからない。かつてはあんなに親しかった、あなただったのに。
私は、渋谷に宛てて手紙を書くことにした。手紙を舞台の主題にするアイデアはその前からあった。インド留学中の佐々木さん、神戸を拠点にする中間さん、湘南に暮らす私が、それぞれ遠くにいるままやりとりして作る、渋谷でひらく作品のモチーフとして、手紙はとてもしっくりきた。それで私たちは渋谷を歩き回った日に、ドンキホーテの入口脇でもう誰の目にもとまっていない恋文横町跡地の碑も見た。ステンレス製のその碑の足もとに、風に吹かれて飛んできた紙屑やペットボトルの空き容器が、吹き溜まっていた。
いま、私たちは都内某所の稽古場に連日通って、やっとその「何か」を作っている。舞台美術に、福留愛さんたちのiii architectsが入ってくださることになった。福留愛さんは、私の散文詩「ヘミングウェイたち」を最初に発表した吉祥寺シアターの「ベンチのためのPlaylist」(構成・演出:萩原雄太)という企画で、劇場のテラスエリアに設置された仮設の電話機を作った人として、私の記憶にあった。それから、音響で中原楽さんが入ってくださることになった。私の旧知の(と、もうそろそろ言ってもいいと思う)サウンドエンジニアである葛西敏彦さんに相談したら、「らくちゃん、らくちゃん! らくちゃんに聞いてみな」と教えてくれて、「分かった!」と私は素直に薦めに従った。舞台監督には、なごみ系男子・河内崇さん。映像には、たのもしい須藤崇規さん。
顔ぶれが揃って最初のズームミーティングをしたとき、ああ、これ、めちゃくちゃ面白くなるやつ!てか、もう面白い!と私は心密かに思っていた。中心のない、それぞれが勝手に自分の渋谷を考えて、構築していく、リゾーム的製作が始まった。
というわけで、私の体力的にも、これからの活動的にも、きっと二度とない舞台になります。
渋谷を愛したことがある、あなた。渋谷なんて好きじゃないよ、のあなた。観に来てください!
渋谷への手紙 〜LOVE HATE SHOW〜
ーあなたとお別れするために、この手紙を書いています。
詩人・大崎清夏 × ダンサー・中間アヤカ × 映画監督・佐々木美佳
変わりゆく渋谷に宛てた、愛と憎しみの恋文<ラブレター>!
特設ウェブ(tumblr):https://lovehateshow-shibuya.tumblr.com/
公演概要
公演スケジュール:
2025年
1月24日(金) 17:00/20:00
1月25日(土) 13:00/16:00/19:00
1月26日(日) 12:00/15:00
会場:404 Not Found
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町1-4 Shibuya Sakura Stage SHIBUYA SIDE 4F
https://www.404shibuya.tokyo/
チケット:一般¥3,000(当日券+¥500)
【手紙割 -¥500】
本公演ではあなたが渋谷の雑踏に捨て去りたい、愛の手紙を募集します。お送りいただいた手紙は、公演内で責任をもって処分させていただきます。404 Not Found内にて便箋を配布中。書いた手紙は、会場内のポストへ投函してください。
手紙を1月23日(木)までに投函してくださった方はチケット代¥500割引いたします。
手紙の書き方・詳細はこちら
<適用条件>
・peatixにてクーポンコード「letter」をご使用ください。
・申込時の備考欄には封筒に記載したお名前(ペンネーム可)をご記入ください。
・手紙の投函が確認できなかった場合は当日差額を頂戴します。
※鑑賞サポートの内容およびご予約方法については、1月8日(水)にお知らせいたします。
作品概要
渋谷にはかつて、恋文を代筆する店が存在していた。そして、いつしか人々はその通りを「恋文横丁」と呼ぶようになった。
それから半世紀、昭和~平成~令和と時代を経て、街はすっかりと変わり、今も目まぐるしく変わり続けている。
そんな変わりゆく渋谷に向けて、3名のアーティストが今、恋文をしたためる。
さまざまな分野と積極的に交わり、言葉の可能性を拡張し続ける詩人・大崎清夏、「現象」としてのダンスを追い求めパフォーマンスを展開するダンサー・中間アヤカ、ドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』で詩や歌の存在に繊細に迫った映画監督・佐々木美佳、初のコラボレーションが実現!
舞台は、大規模な再開発によって誕生した、オープン間もない商業施設Shibuya Sakura Stageの一角にあるスペース404 Not Found。
渋谷の真ん中で、言葉が、映像が、ダンスが、交差する。
まわる時代を駆け抜ける、予測不能のコラボレーション。
LOVE HATE SHOWの開幕!
キャンセルポリシー
ご予約後のお客様都合でのキャンセルは返金不可。
変更も原則不可。
peatixでのチケット譲渡をご利用ください。
クレジット
構成:大崎清夏(語る人)、中間アヤカ(踊る人)、佐々木美佳(映す人)
空間設計:iii architects 舞台監督:河内崇 映像:須藤崇規 音響:中原楽(KARABINER inc.) 宣伝美術:廣田碧(看太郎)
音声ガイド:舞台ナビLAMP
プロデューサー:黄木多美子(precog)、遠藤七海
鑑賞サポート制作:加藤奈紬
制作アシスタント:石川佳音(precog)
主催・企画制作:株式会社precog
助成:芸術文化振興基金、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成/東京芸術文化鑑賞サポート助成】
本事業の鑑賞サポートは、誰もが芸術文化に触れることができる社会の実現に向けて、「東京文化戦略 2030」の取組「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー」の一環としてアーツカウンシル東京が助成しています。
協力:小声 会場協力:404 Not Found 稽古場協力:Yuuragi.
お問い合わせ
株式会社precog
https://precog-jp.net/
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358番地 小磯大竹ビル202
TEL:03-3528-9713 MAIL:ticket.precog@gmail.com