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 朝10時、ホテルのすぐ近くまでサイカイちゃんが車で迎えに来てくれて、夕張郡の長沼までドライブした。サイカイちゃんが暮らしていた珠洲の家は、元日の震災で全壊してしまった。彼女がちょうど外出しているときに地震が起きた。とにかくいま、サイカイちゃんは北海道にいる。車に乗りこむなり、私は彼女を抱きしめずにはいられなかった。生きていてくれて、ほんとうによかった。
 車が出発した瞬間から、私たちは会っていなかったあいだに起きた出来事をどんどん話し、札幌の街を出た景色はだんだん広々としてきて、いつのまにかいちめんの雪で真っ白に覆われた平らな土地ばかりになった。いちめんの雪に挟まれた真っ直ぐな一本道を車は走り抜けていって、私たちは〈ハーベスト〉というスローフードのお店でランチにした。お店の傍にりんご畑があるらしく、ポークステーキにもサラダにもりんごのソースやりんごのドレッシングがかかって、生の黄色いりんごも付いていた。じゃがいものニョッキもおいしかった。〈丘の上珈琲〉でくるみのパイまで堪能して、サイカイちゃんは私を、午後3時ぴったりにコンサートホールまで送り届けてくれた。悩み多き日々にも、仕事のできる女子なのだ。
 ホールではコンサートのリハがもう始まっていて、私は持ってきた一眼レフで、聴きながらすこし写真を撮った。18時から本番。たくさんのお客様が入って、サイカイちゃんも来てくれた。始まるとあっというまだった。森山さんは何度もステージに上がって、各曲を解説した。私も一度だけ上がって、自分の話をすこしした。
 歌われる声は、歌う人の体を震わせて、空気を震わせて、聴く人を震わせる。何年も練習を重ねた「炊飯器」は、歌う人ひとりひとりに幾層も降り積もって、ふくよかに熟成されていた。圧巻だった。
 学生時代によく行った高田馬場の居酒屋を思いださせる大広間の宴会場で、打ち上げに混ぜてもらった。スピーチがだめな私は、お祝いがわりに「ウムカ」という詩をよんだ。
 物販用に持ってきた詩集20部、めでたく完売。