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 黒沢美香さんが生きていた頃、彼女のダンス公演のチラシによく「怠惰にかけては勤勉な黒沢美香のソロダンス」という冠文句が書かれていて、好きだった。けさ、いまの自分の状態を身体の内側を点検する感じで探っていたとき、「怠惰にかけては勤勉な」が転がり出てきて、あーあったあった、そうそうこれこれ、となっていた。
 綱島のスタジオで初めて黒沢美香さんにお会いしたとき、あまりダンサーに見えなくて、おもしろいことだなあと思ったのを憶えている。ほら、バレリーナとかって準備する所作からもうバレリーナだったりする、ああいうのとは全然ちがった。生活者、という感じがした。動きの芯が太くて、どっしりして見えるのに軽そうで、私の知ってる美しさとは違って、なのに筋が通っていて、美しかった。自分の暮らしを、まっすぐやってるひと。暮らしとダンスの境い目のないひと。そのひとが踊る『薔薇の人』というダンスをみて、詩を書いた。「私は朝日が眩しくて……」という、折り紙をえんえん折る詩だった。
 あの日からずいぶん時間が経ったけど、「怠惰にかけては勤勉な」は私のなかにいまでもフリーズドライの保存食のようにストックされていて、こういう、ほんとうに何でもない日に棚から出てくる。よくわからない気温が乱高下を続けても、確実に日が短くなっていることで私は冬を感知していて、今年は冬至までどうやりすごそうか、考えている。