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すず、三日目。
午前中の空き時間に、マリア・フェルナンダ・カルドーゾというコロンビア出身のアーティストの作品を見て、それから『うつつ・ふる・すず』プレトークのために〈さいはてのキャバレー〉に向かった。キャバレーも地震で地盤が陥没したと聞いて心配していたけど、きれいに直っていてほっとした。
よく晴れて気持ちよかった。キャバレーの楽屋の裏口を出るとすぐ内浦の海があって、プレトークが始まるまで、そこでほーっとした。私がひとりで日なたぼっこしているのを見つけて、いつのまにかチームのみんなが集まってきた。昨日お風呂に入る時間がなくて、きょうも入れるか怪しいという話をしたら、芸術祭チームのO石さんが「大崎さん、もう今日から車借りちゃいましょうよ(意=そうすれば誰かに送ってもらう必要がなくなってフレキシブルに動け、いろいろと丸く収まりますぞ)」と言うので、本当は明日から借りるつもりだったけれど、そうすることにした。プレトークが終わるとすぐ、S上さんがレンタカー屋さんまで送ってくれて、三菱の赤いかわいい軽自動車を借りた。手続きらしい手続きは免許証のコピーをとられたくらいで、これでいいの!?と思った(けど、芸術祭チームご用足しの店で、お店の人もいいひとで安心だった)。
 ラポルトすずの駐車場に車を停めて、いろは書店のカフェでサンドイッチとコーヒーの昼ごはんにして、ホビーつぼのにまた寄った。「私もお風呂入ってないんですよね」と言うK野ちゃんを助手席に乗せて、なんだかうれしい気持ちになりながら、宝立までひとっ風呂浴びに行った。飯田町でK野ちゃんを降ろして、そこからひとりで大谷へ向かった。あんなに躊躇していた車の運転は、思ったより愉快だった。自分のiPhoneを車の画面に繋げて、Googleマップを画面に映してカーナビ代わりにできる機能がとてもべんりだった。途中でSiriに「なんか音楽かけて」と頼むと、いい感じの音楽をかけてくれた。国道249号線を走って、大谷峠をこえて、大谷の公民館まで行った。公民館の駐車場に車をとめたときの達成感! 大人になって、こんなふうに、まだ味わったことのない達成感を味わうとは思わなかった。

夜、初演。上演前のぽっかりした時間に外に出ると、大きな満月が東の森の向こうに見えた。中秋の名月だった。すこし肌寒かったけれど、月を見ながら外浦に面した外の席でお弁当を食べた。シアターミュージアムは満席だった。朗読劇が終わる頃、私の座った席からも、泣いているひとの顔が見えた。海太郎さんと長塚圭史さんとのアフタートークで、「そういえば、いま初めて言うんですけど、樹木を主人公にした作品を書きたいとずっと思ってたんです」と私は言った。珠洲がそれを、いつのまにか実現させてくれていたのだった。