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すず、一日目。
羽田からの午前便で、今年三度目ののと里山空港に降りた。空港にはS上さんが迎えにきてくれた。
宿に荷物を置いて、宿の明るい部屋ですこし仕事をした。海太郎さんに偶然会えたので、レンタカーに同乗してシアター・ミュージアムへ行くことになった。初心者マークを握りしめて珠洲にきた私に、海太郎さんは道の途中で「運転しますか」と促して交代してくださり、私は震えながらハンドルを握って、カーブの多い峠道をすこしだけ運転させてもらった。坂道に差し掛かると、スピードコントロールが覚束ない私の隣から海太郎さんがギアチェンジしてくださり、私は笑ってしまいつつ感謝。
椿茶屋でふたりでお昼を食べていたら、約束していたわけでもないのに朗読劇チームの面々が続々と集まってきた。誰かが、これは集合写真撮ったほうがいいんじゃない!?と言いだして、わいわい撮影会が始まった。たまたま居合わせた若者が、機転をきかせて撮影係になってくれた。どこからか色紙が現れ、常盤貴子さんと長塚圭史さんと海太郎さんと私の四人でサインを書いた。それから今回の舞台のイメージ元になったひみつの場所(おはなしのなかで、椿の木が立っている設定の場所)まで、常盤さんを案内した。私はどきどきしながらも、高校生のとき『愛していると言ってくれ』を観て手話点字同好会を立ち上げたことや、常盤さんがカバーガールになっている雑誌の『KIMONO姫』をいまでも大事に持っていることを、打ち明けてしまった。

雨が降ったりやんだりするなか、テクニカルミーティングが始まり、稽古が始まり、夜が更けるまでいろんな調整が続いた。休憩のとき、ふらふらと外に出たら、外浦の沖にイカ釣り船の漁火が見えた。働く光。人間の光だった。

帰りは楓くんが宿まで送ってくれた。去年も全力でサポートしてくれていたのに今年になってその名前をちゃんと憶えた岐阜生まれの楓くん。車を運転しながら、家族としっかり根を張って珠洲に生きようとしている楓くんは、どんなふうにして珠洲まで辿り着いたか話してくれた。