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山に行きたい。この春はふたつ、低山を歩いた。大磯の駅から神社を経由して登る湘南平と、修禅寺からすこし車で南下して「踊子歩道」を歩く天城峠。どちらも穏やかに晴れた日で、メンバーもそれぞれすてきで、とてもいい山歩きだった。私がいま考えているのは、夏山のことだ。北アルプスか。八ヶ岳か。誰と登るのか。いつ登るのか。考えはじめると止まらなくなる。いつか行きたいと思っていた安達太良山のくろがね小屋が改修工事に入って、二〇二五年までお休みだという。残念すぎる。それでも今年は、東北の山にも登ってみたい。みちのく潮風トレイルも、月山や鳥海山のことも、ちらちらと気になりつづけたまま、未踏のままだ。ソロハイクはほとんどしたことがないけれど、何度か歩いた山なら行けるだろうか。いや、ちょっとしたことで不安になりやすいタイプだから、やっぱり誰かと一緒に行ったほうがいいか……。
山に持っていく本のことも考えてしまう。天城峠を歩いたあとに『伊豆の踊子』を読み返したら、自分の身体にも入っている伊豆の地名がどんどん出てきて心が躍った。修禅寺から湯島、下田。踊り子が伊豆大島の波浮港出身だったなんて! 昔ながらの温泉街の雰囲気の残る波浮のふ頭で熱々のコロッケを食べたことがある人なら、この情報がどれだけ踊り子の身の上を語るのにふさわしいかわかると思う。
ヤマケイ文庫の『牧野富太郎と、山』や、いつもは寝室に置いてある『クマにあったらどうするか』も、早くリュックに入れてやりたい。石牟礼道子さんの『椿の海の記』も、ラフカディオ・ハーンの『心』も、山の旅に連れていってもらう出番をじっと待っている気がする。