「香港料理店」
香港の自由を求める大きな抗議の日に
詩人たちはロッテルダムの片隅の香港料理店に集まっていた
香港では法が脅かされていた
詩人たちは叉焼や蝦子麺の皿を囲んだ
香港では言論が脅かされていた
日本の詩人はオランダ人の通訳を通して中国の詩人と語りあった
香港では誰かが催涙弾を投げ
コンゴの詩人はアメリカの詩人にリンガラ語の乾杯を教えた
誰かが噴きあがる煙を雨傘で防いだ
詩人たちは英語や日本語やリンガラ語で乾杯した
香港では書店員が亡命の計画を練っていた
ロシアの詩人は緊張していた
ペルーの詩人は持論を述べた
ポーランドの詩人はまだ向かっている途中だった
香港は怒っていた
ドミニカ共和国の詩人はビールをたくさん飲んだ
——恋人と猫の写真を眺めたいのを我慢して
香港の大通りをひとびとが埋め尽くした
黒いマスクの若者たちが最前列を颯爽と歩いた
ハーレムから来た詩人が即興のラップを披露しはじめると
詩人たちは耳をすました
香港の一部は暴徒化し警察と衝突した
詩人たちは三々五々ホテルへ帰っていった
飲み干されたグランマニエの杯を誰かが洗った
そしてホテルのある部屋ではその晩遅く
小さな画面に小さな文字が打ちこまれた
この私の人生の時間がまるごと、
自由のための抗議の比喩になればいいのに。