尊敬する音楽家や作家の訃報が続いて、鬱々とすごしていた。昼ごはんを食べながら韓国ドラマを観ていても、へんなタイミングで涙が出る。書かなければならないものを横目に放置して、てきとうに流行りの音楽をかけて歌ってばかりいた。いやなことが重なって、私が鬱々とすごしているあいだに、いつのまにかピアノを習いはじめていた友達が、パッヘルベルのカノンをちゃんと弾けるようになっていた。友達が送ってくれた動画の中で、それはとてもいい演奏だったのに、私は鬱屈を隠しきれずにやつあたりしてしまった。ああいやだと思った。こんな私は私がいやだ。鬱々としたまま、仕事をひとつ片づけて、眠って、起きて、自転車に乗った。さいわいきょうは晴れていた。いつも行くスタバじゃなくて(覗いてみたけど、とても混んでいたし)、個人経営の小さなコーヒー店でアイスラテを飲んで本を読んだ。まだゴールデンウィークにもならないというのに初夏みたいな暖かさだった。すこし日が落ちるのを待ってから海に行った。浜沿いの舗道を、ゆっくりゆっくり自転車で走った。日曜日の人たちが、海にくるために海にきていた。それをみて、すこし気持ちが明るくなった。私の目の前で、気流を使って地面すれすれまで何度も繰り返し舞い降りて遊んでいるとんびをからすの輩が襲撃した。私は「ええ!」とひとりで笑ってしまった。河口をすこし遡った。それから海沿いの国道に出て、もう一軒、行きつけのカフェにはいってアイスコーヒーを飲んで、本の続きを読んだ。カフェをはしごするのはすごくひさしぶりのことだった。書かなければならないものは、一行も進まなかった。でも、きょうはこれでよかったと思う。そう思うことにする。