火曜日は恵比寿で、結さんと肉を食べる会をやった。結さんは画家である。私たちは去年、横浜での展示をきっかけに知り合って、展示中のイベントで制作されて私がとても好きになった絵を、結さんは私の詩と交換で譲ってくれて(その交換が成立した日、芸術家をやるって愉快だなと思ったものだ)、火曜日は恵比寿で、その完成した詩を結さんに納める会でもあった。
絵は、ギャラリーの展示室で見たときには普通の大きさに感じられたのに、額装してもらうときに改めて対面すると、ちょっとびっくりしてしまうくらい大きかった。私の部屋に来たときも、絵はちょっと動揺してしまうくらい大きく感じられ、やっぱりもっと小さい絵にすればよかったかなという気持ちが一瞬頭をかすめた。けれども毎日一緒に過ごすうちに、絵は部屋の壁になじんで、またちょうどいい大きさになってきた。ひとの身体の動きを追って描かれた線や色が、ときどき目に入ってくる。昨日は見えなかった線や色が、今日になってよく見えるということがある。
お酒をのみながら、制作のことや、暮らしのことや、世の中にはわからないことが多いことや、おいしいものを食べることの重要性について、私たちは喋った。基本的に朗らかな結さんは、話しているとときどきこちらが息をのむようなふしぎな比喩をつかうのだけれど(ふしぎすぎて、思いだそうとしても思いだせない)、本人にはあまり自覚がないらしい。結さんの同僚は、仕事を辞めたらトロールハンターになりたいらしい。私たちの斜め後ろでは、てらてらとよく肥えた都会の獰猛な馬のような男たちが声をぱーんぱーんと張って向かいに座る女たちに自分たちの魅力をアピールしようとしていて(ああそうだった、ここは恵比寿、これだよなあ)、声が空間に溶けがちな私たちは、しばしば会話を中断されて苦笑いしてしまった。