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しめきりのある原稿の途切れめがきて、久しぶりにゆっくり読書や料理や掃除をしている。火曜日には上野のピカソ展に行って、そこから友達夫婦の営んでいる西馬込のカフェに足を伸ばしたりもした。ピカソの絵は、入ってすぐのところに展示された素描の「The Sleeper(眠る男)」というのがすごく良くて、なかなか絵の前を離れられなかった。眠る男のベッドの反対側に立て膝をついて座った裸の女の、男を見ている顔が、とても柔和で、優しくて、しあわせそうだった。腕をあげて眠っている男の脇毛まで、しあわせそうだった。
カフェは大繁盛で満席。Nが出てきてくれて、私は外で本を読みながらすこし待って、席が空くと入って、Nが立ち働く合間に私たちは少しずつ喋った。これまでいつも、友達どうし集まったり、東京観光のひとを連れてきたりで、考えてみると、ひとりで来るのは初めてだった。「私らも年とった!」とNが言う。Nとふたりで新宿ゴールデン街の一日貸しの店でスナックのママをやったのは、あれはもう何年前だろう? Nの息子は今年、小学2年生になる。カフェは外から射しこむ光がとても心地よくて、チョコレートスモアの甘さが蠱惑的で、読書が捗って、私はやっと、冬やすみの心地がした。Nと、今年こそは「語る会」をしようと話して、帰ってきた。